大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

釧路地方裁判所 平成9年(わ)23号 判決 1997年6月23日

本店の所在地

北海道白糠郡白糠町東一条南四丁目二番地七

有限会社富士鱗藤原商店

(右代表者代表取締役 藤原忠雄)

本籍

北海道白糠郡白糠町東一条南四丁目二番地七

住居

北海道白糠郡白糠町東一条南四丁目一番地七

職業

会社役員 藤原忠雄

昭和八年三月一六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官吉田誠治及び同岩崎吉明並びに弁護人小野塚聰各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社藤鱗藤原商店を罰金二六〇〇万円に、被告人藤原忠雄を懲役一年に処する。

被告人藤原忠雄に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社有限会社富士鱗藤原商店(以下「被告人会社」という。)は、北海道白糠郡白糠町東一条南四丁目二番地七に本店を置き、蟹、水産物の加工及び販売等を営業目的とする資本金五〇〇万円の有限会社、被告人藤原忠雄は、右被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括する者である。被告人藤原は、被告人会社の業務に関してその法人税を免れようと企て、架空の現金仕入れを計上して簿外資金を作り、これを架空名義で預金する方法により所得を隠匿した上、

第一  平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五〇九八万二五六五円であったにもかかわらず、同年八月三一日、釧路市幣舞町三番一一号の所轄釧路税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二二七万四一八五円でこれに対する法人税額が五五万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一八二七万六七〇〇円と右申告税額との差額一七七二万一五〇〇円を免れ、

第二  平成四年七月一日から平成五年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が六九五八万八七五九円であったにもかかわらず、同年八月三一日、前記釧路税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五二一万五五七六円でこれに対する法人税額が一四〇万五四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額二五二八万七〇〇円と右申告税額との差額二三八七万五三〇〇円を免れ、

第三  平成五年七月一日から平成六年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億四九二五万八八八八円であったにもかかわらず、同年八月三〇日、前記釧路税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一〇万四九三九円でこれに対する法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額五五一六万六四〇〇円全額を免れ

たものである。

(証拠の標目)(括弧内の甲・乙の番号は証拠等関係カード及び書証に記された検察官請求の証拠番号を示す。)

判示全部の事実について

一  被告人藤原忠雄の当公判廷における供述

一  被告人藤原忠雄の検察官に対する供述調書(乙1)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(乙2から5)

一  藤原ヨリ子の検察官に対する供述調書(甲16)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(甲17)

一  江刺家歌江の検察官に対する供述調書(甲18)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(甲20)

一  藤原初雄の検察官に対する供述調書(甲21)

一  今野正義(甲24)及び寺井誠一(甲25)の検察官に対する各供述調書

一  沼田昭典の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲3)

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書(甲2)、「現金調査書」と題する書面(甲9)、「預金調査書」と題する書面(甲10)、「道民税利子割調査書」と題する書面(甲12)、「未払事業税調査書」と題する書面(甲13)及び「その他所得(社長勘定)調査書」と題する書面(甲15)

一  橋本好司作成の「答申書」と題する書面(甲26)

一  押収してある法人課税ファイル一冊(平成九年押第一〇号の1)

判示冒頭の事実について

一  釧路地方法務局登記官作成の登記簿謄本(乙8)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(甲6)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(甲7)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(甲8)、「社長勘定調査書」と題する書面(甲11)及び「その他所得(現金)調査書」と題する書面(甲14)

(法令の適用)

被告人会社の判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人藤原の判示各所為はいずれも同法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人藤原については所定刑中懲役刑を選択し、以上は被告人両名の各罪につきそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二六〇〇万円に、被告人藤原については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年にそれぞれ処し、被告人藤原に対しては同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日か三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役としてその経営を一手に取り仕切っていた被告人藤原が、被告人会社の法人税をほ脱した脱税の事案である。

被告人会社のほ脱した法人税額は、三期合計で約九六〇〇万円と多額であり、そのほ脱額も、平成六年六月期が一〇〇パーセントであるなど三期全体で約九七パーセントと極めて高率であって、犯行の結果は重い。被告人藤原は、被告人会社が「浜買い」という漁業者から直接水産物を買い入れる方法による仕入れを行っていたことを利用し、架空の浜買いによる現金仕入れを計上して簿外資金を作りだし、これを架空名義で預金する方法により隠匿した上、所得額を過少にした虚偽の申告をして法人税をほ脱していたものであって、その手口が悪質である。また、被告人藤原は、相当長期間にわたり不正な方法で簿外資金を作ってきており、被告人会社が本件により国税当局に摘発された際には、その額が現金で約二億二〇〇〇万円、架空名義預金で約七億七〇〇〇万円という多額に達していたことや、簿外資金が被告人会社の事業以外のことにも使われていたことなどにかんがみると、本件脱税は個人的蓄財のために行われたというべきであって、動機に取り立てて酌むべきものはない。さらに、被告人藤原は、本件犯行後にも国税当局の摘発を免れるため、架空名義預金の一部を解約したり、被告人会社の従業員の自宅に現金や預金証書を隠匿するなどの工作をしており、犯行後の情状も芳しくない。これらの事情に照らすと、被告人会社及び被告人藤原の刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人会社は、本件法人税ほ脱に関して、本税、重加算税及び延滞税を含めた合計約一億五〇〇〇万円を全納したこと、被告人藤原は、本件が発覚してからは、調査、捜査に協力し、事実を認めて反省するとともに、今後は被告人会社の経営を息子に譲り、税理士と相談し経理を明瞭にする旨述べていること、情状証人として出廷した被告人藤原の妻も今後は家族で協力して経理を適正なものにしていく旨述べていること、被告人藤原には四〇年以上前の罰金前科二犯以外に前科がないこと、被告人藤原は被告人会社の経営にいまだ重要な役割を果しており、被告人藤原が実刑に処せられると、被告人会社や被告人藤原の家族が多大な悪影響を被るおそれがあること、その他被告人藤原が六四歳という年齢であることなどの被告人会社及び被告人藤原のために酌むべき事情も認められる。

そこで、以上の諸事情を総合して考慮すると、被告人会社の罰金額を主文のとおり量定するとともに、被告人藤原を主文の刑に処した上、その刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人会社 罰金三〇〇〇万円 被告人藤原 懲役一年)

(裁判長裁判官 田村眞 裁判官 瀬川卓男 裁判官 岡山忠広)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例